多佳子、久女、しづの女の“俳句”

多佳子

乳母車夏の怒涛(どとう)によこむきに
星空へ店より林檎(りんご)あふれおり
罌粟ひらく髪の先まで寂しきとき
大阿蘇の波なす青野夜もあをき
祭笛吹くとき男佳(よ)かりける
月光にいのち死にゆくひとと寝る
こがね虫吾子(あこ)音読の燈(ひ)をうちうつ

※「美代子入試のため暁よりはげむ」とある。

久女

東風吹くや耳現わるるうなゐ髪
朝顔や濁り初めたる市の空
鯛を料る俎板せまき師走かな
冬服や辞令を祀る良教師
旅衣春ゆく雨にぬるるまま
紫陽花に秋冷いたる信濃かな

※うなゐ髪=おかっぱ頭

しづの女

ちひさなる花雄々しけれ矢筈草(やはずくさ)
花日々にふくらみやまず書庫の窓
汗臭き鈍(のろ)の男の群(むれ)に伍(ご)す
棲(す)めば吾が青葦原の女王にて
山の蝶コックが堰(せき)し扉(と)に挑(いど)む
紅塵を吸うて肉(しし)とす五月鯉(さつきごい)