トップ 西日本シティビルプロジェクト クラシックを心地よく楽しめる多機能ホール。NCBホールの空間と音響はどう生まれたのか

クラシックを心地よく楽しめる多機能ホール。
NCBホールの空間と音響はどう生まれたのか

(左)シアターワークショップ・大野勝さん (右)永田音響設計・鈴木航輔さん

2026年夏、西日本シティビル地下2階に「NCBホール」がオープンする予定です。JR、地下鉄空港線、七隈線「博多駅」に直結。国内外からのアクセスに優れ、クラシックコンサートをはじめ、伝統芸能などの公演、セミナー・展示会・試験の会場など、様々なニーズに対応可能な多機能ホールです

シアターワークショップと永田音響設計が協力し、音楽ホールとしての質と多機能性を両立させるために、形や素材、響き方を丁寧に検討してきました。

シアターワークショップは公共ホールや劇場の計画から運営までを担うトータルプロデュースカンパニー、永田音響設計は世界各地のコンサートホールを手がけてきた音響設計の専門集団です。専門性の高い2社の知識と経験を結集させることで、平土間形式の多機能ホールでありながら、「音響」が大きな魅力のひとつとなっています。

NCBホールのような広い平土間の空間で、クラシック音楽を楽しめるような豊かな響きをどのように実現するのでしょうか。そこで今回は、NCBホールの音響と空間に込められた工夫を探ります。

2026年夏、西日本シティビル地下2階に「NCBホール」がオープンする予定です。JR、地下鉄空港線、七隈線「博多駅」に直結。国内外からのアクセスに優れ、クラシックコンサートをはじめ、伝統芸能などの公演、セミナー・展示会・試験の会場など、様々なニーズに対応可能な多機能ホールです。

シアターワークショップと永田音響設計が協力し、音楽ホールとしての質と多機能性を両立させるために、形や素材、響き方を丁寧に検討してきました。

シアターワークショップは公共ホールや劇場の計画から運営までを担うトータルプロデュースカンパニー、永田音響設計は世界各地のコンサートホールを手がけてきた音響設計の専門集団です。専門性の高い2社の知識と経験を結集させることで、平土間形式の多機能ホールでありながら、「音響」が大きな魅力のひとつとなっています。

NCBホールのような広い平土間の空間で、クラシック音楽を楽しめるような豊かな響きをどのように実現するのでしょうか。そこで今回は、NCBホールの音響と空間に込められた工夫を探ります。

NCBホールとは?

NCBホールは、段差のない平土間形式を採用し、約400㎡の広さがあります。昇降可能な移動式のステージを活用し、催しの内容に合わせて空間を変化させられることが特徴のひとつです。

前方にステージを置くコンサートや講演会での使用はもちろん、ステージを使わず、フロア内に机を配置する研修会などにも使用できます。展示会や式典では、平土間ならではの会場全体を使ったレイアウトにも対応できます。

さらに、移動式のステージを生かせば、コンサートなどをさまざまなスタイルで開催することが可能となります。

例えば、ステージを中央寄りに置き、観客が演奏者を囲むようなサイドステージやセンターステージにすると、演奏者との距離が近いコンサートが実現できます。音が立ち上がる方向も変わり、同じホールでも異なる体験を創出できる点も大きな魅力です。

ホールの響きを支える空間設計

シアターワークショップ 大野勝さん

NCBホールの空間づくりを担ったのは、劇場やホールの企画・計画・設計・運営を専門とするシアターワークショップです。空間そのものの形や素材、客席と舞台の関係を整え、音が生きる“場の環境”をつくる役割を担っています。設計統括を務めた大野勝さんは、40年近く舞台芸術の空間設計に携わってきた建築家です。

大野さんがまず意識したのは、地下空間であっても「音が豊かになるホールの大きさ」を確保することでした。天井高や構造に制約がある中で、平面と断面を同時に見ながら、ホール全体の容積をできる限り大きくとるように形を整えました。空間に十分な余白があることで、音がのびやかに広がります。

壁の角度や段差のつけ方も、音響の狙いに沿ったものです。音が天井方向に抜けすぎないよう、壁面にはわずかな傾斜がつけられ、段差が生む陰影が音の反射を助けています。

NCBホールの建築模型

今回の設計で目指した「どこにステージを置いても明瞭に響く空間」を実現するために、空間のかたちそのものが精密に調整されているのです。

ホールの壁全体に使われている飫肥杉(おびすぎ)のウッドブロックは、九州産の木材を無垢で使用しています。木材はよく楽器にも使われることがある、音の相性が良い素材です。

飫肥杉(おびすぎ)のウッドブロック

無垢材ならではの厚みと重さがあることで低い音までしっかり反射し、表面につけられた細かな凹凸が高い音を一点に集めず、やわらかく散らす効果があります。

無垢の木の持つ温かみと存在感のある表情は意匠として魅力があるだけでなく、耳にやさしい響きを生む役割もあります。ウッドブロックの形や割り方にも、一つ一つ理由があります。

「反射音が一方向に偏らず、かつ壁や天井に拡散するように、段差のある壁をいくつかのスケールに分けて構成しています」と大野さん。木材のもつ温かさが視覚的な落ち着きを生むだけでなく、耳に自然になじむ響きのために必要な“表情”でもあります。

平土間の空間で「明瞭さ」と「包まれるような感覚」を両立

永田音響設計 鈴木航輔さん

NCBホールの音響設計を担当した、永田音響設計のシニアコンサルタント・鈴木航輔さん。国内外のホールづくりに携わってきた音響の専門家です。

「響きは目に見えませんが、空間そのものが音の性格を決めます」と鈴木さんは語ります。演奏者から直接届く音、そのすぐあとに壁や天井から跳ね返ってくる反射音。その時間差や量が、声や楽器の輪郭をつくり、余韻の長さが空間の広がりを生みます。

鈴木さんは、良い響きには4つの条件があると考えています。

(1)適度な音量できちんと届くこと。
(2)言葉やメロディがはっきり聞き取れる明瞭さが保たれていること。
(3)音に包まれるような感覚があること。
(4)音がすぐに途切れるのではなく、適度な余韻が残ること。

この4つの条件が同時に満たされていると、私たちは「響きが良い」と感じやすくなります。

コンサートや講演会で特に大切になるのが「音の明瞭さ」です。演奏者からの直接の音に続いて、ごく短い時間のうちに反射音が跳ね返ってくると、言葉や旋律が自然に立ち上がります。0.1秒で34メートル進む音が、そのわずかな時間の中でどの方向に返ってくるかで、聞こえる音の印象が大きく変わります。

現場での鈴木さん(左から2番目)

「どこで演奏しても気持ちよく響く形にすることが大切でした」と鈴木さんは振り返ります。

NCBホールの音づくりでは、この「音の明瞭さ」と「音に包まれるような感覚」の両方を、平土間という条件の中でどう両立させるかが大きなテーマでした。ステージの位置が常に決まっている一般的なホールとは違い、NCBホールは前方にも中央寄りにもステージを置けるつくりです。観客の並びも、コンサートや講演会、展示会や式典など、用途によって大きく変わります。

壁をわずかに上向きに傾斜させることで、壁と天井を伝わって客席に音が届くまでの経路を延ばしています。反射音がわずかに遅れて到達し、音が美しく重なる効果を生み出しています。

また、段差によって生じる角は、比較的早く音を反射させ、客席や演奏者へ返すように設計されています。

壁にはわずかな傾斜がある

ステージの位置が変わっても、早いタイミングで反射音が跳ね返ってくるように、空間の形が整えられているのです。

NCBホールの音響と空間が支える物語

シアターワークショップの大野さんの空間設計と、永田音響設計の鈴木さんの音響設計のお話を伺い、NCBホールの空間設計と音響設計の精密さに驚きました。こだわりを知ると、一刻も早くホールで音楽を聞いてみたいと思います。

博多駅からそのまま地下通路で向かえる、生の音をじっくり楽しめる中規模ホール。きっと、福岡の新たな音楽の拠点となるでしょう。

音響にこだわり抜いた一方で、鈴木さんは「音響そのものが主役になる必要はない」とも言います。

「“音響がすごかったね”より、“いい演奏会だったね”と言われる方がうれしいんです」
シアターワークショップの大野さんもこう話します。

「ホール建築は目立ちすぎず、舞台や音楽が主役であってほしいんです。 あくまでも脇役でよいのです。ホールでの良い体験を積み重ねることで、街にとっての居場所になっていく。そんなホールになればと思っています。」

音響や建築が意識されすぎることなく、演奏や時間の豊かさをそっと支える存在でありたいという願いでつくられた設計です。こうした考え方と細かな調整の積み重ねによって、生まれたNCBホール。この場所でどんな体験が生まれ、どんな物語が育っていくのか。そんな未来を思い描きたくなる空間です。

NCBホールのホワイエ(ロビー)

NCBホール公式サイト

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