トップ 西日本シティビルプロジェクト 西日本シティビルの外壁のタイルは圧巻の約6万枚! 瀬口タイルが一枚一枚に込めた想い

西日本シティビルの外壁のタイルは圧巻の約6万枚!
瀬口タイルが一枚一枚に込めた想い

博多駅前にあるビルの多くは、ガラス張りだ。どのビルもガラスが光を反射している中「西日本シティビル」の外壁は少し異質だ。光を反射するのではなく、光を受け止める。

完成予想図やCGで見ていた人ほど、実物の前に立つと違和感を覚えるかもしれない。図面では平坦に見えていた外壁が、実物には奥行きと陰影がある。晴れた午後と曇りの朝とでは印象が違う。歩きながら角度を変えると、また見え方が変わっている。時間帯によって、天候によって、見る角度によって、表情が少しずつ変わっていく。


「西日本シティビル」の外壁は、遠くから見るとひとつの大きな面に見える。でも近づいてよく見ると、細長いタイルが一枚一枚、整然と、そしてわずかにずらしながら貼り重ねられていることがわかる。その枚数は、なんと約6万枚。手掛けたのは、福岡県春日市の株式会社瀬口タイルである。

博多駅前にあるビルの多くは、ガラス張りだ。どのビルもガラスが光を反射している中「西日本シティビル」の外壁は少し異質だ。光を反射するのではなく、光を受け止める。

完成予想図やCGで見ていた人ほど、実物の前に立つと違和感を覚えるかもしれない。図面では平坦に見えていた外壁が、実物には奥行きと陰影がある。晴れた午後と曇りの朝とでは印象が違う。歩きながら角度を変えると、また見え方が変わっている。時間帯によって、天候によって、見る角度によって、表情が少しずつ変わっていく。
「西日本シティビル」の外壁は、遠くから見るとひとつの大きな面に見える。でも近づいてよく見ると、細長いタイルが一枚一枚、整然と、そしてわずかにずらしながら貼り重ねられていることがわかる。その枚数は、なんと約6万枚。手掛けたのは、福岡県春日市の株式会社瀬口タイルである。

「イムズを手掛けた父から受け継いだ
バトンだと思う」

瀬口タイル・瀬口裕二社長

瀬口タイルは、創業50周年を迎えたタイル専門工事会社だ。代表の瀬口裕二社長は58歳。もとは宮崎でタイル職人として働いていた父が、瀬口社長が小学6年生のころに福岡に営業所を出し、福岡を中心に九州各地でタイル施工一筋、実績を重ねてきた。

「西日本シティビル」の仕事の話が来たとき、瀬口社長は「運命だと思った」と言う。父はかつて、天神のランドマークだったイムズのタイルを手がけた職人だった。そのイムズが解体されるころ、父は病に倒れ、2年前に他界した。

「父さんが自分で作ったイムズがなくなるね、と言っていた時期に、この仕事が来た」

かつての天神・イムズ

イムズがあった天神からほど近い場所に新たなビルが建つ。その外壁を、今度は自分が任されることになった。

ただ、話が来たからといって、すんなり決まったわけではない。これほど複雑な外観をもつ建物の外壁タイル工事は、これまで東京の専門工事会社が担ってきた領域だった。九州の会社には技術力がない、ノウハウがない。そういう見方が業界にはあった。瀬口社長自身も、最初から自信があったわけではないという。「どのくらいできるか、もうただ必死だった」。

それでも、手を挙げた。当時ちょうど取り組み始めていた3Dで建築設計ができるソフト「BIM」で図面を描き、大成建設の本社設計部門にプレゼンした。仕上がりのイメージを可視化し、施工の具体的な計画を示した。九州の会社が現地で動くことのコスト面や対応力の優位性もあったが、何より評価されたのは、この難しい仕事に真剣に向き合う姿勢だったと瀬口社長は感じている。採用の知らせが届いたとき、「嬉しい」という言葉しか出なかったという。

「『西日本シティビル』のお仕事は、イムズを手掛けた父から受け継いだ『バトン』だと思っている」と瀬口社長は語る。それでも今回の仕事を「集大成」と表現するとき、その言葉には父への思いと、50年の積み重ねへの自負が、静かに込められている。

西日本シティビルの外壁が独特の
表情を持つ理由

「西日本シティビル」の外壁が独特の表情をもつ理由は、いくつかの要素が重なっている。

まず、設計だ。このビルの外観デザインを手がけたのは、デンマークを拠点とする建築設計事務所「3XN Architects」。世界的に知られる事務所で、日本国内での建物はこれが初めてとなる。

3XN Architectsが生み出したのは、一見すると気づきにくい仕掛けだ。外壁の面は、フラットではない。よく見ると、壁面が山形にわずかに折れ曲がっており、その傾きと組み合わせのパターンが27通りある。この凹凸によって、光の当たり方と影のでき方が場所ごとに変わる。時間帯によって太陽の角度が変わるたびに、外壁全体の見え方が少しずつ動いていく。

次に、タイルの貼り方だ。使われているのはあたたかみのある色合いの長尺タイル。このタイルを、縦方向に「ずらして」貼っている。レンガを互い違いに積む馬張りのような単純なパターンではなく、段を追うごとに少しずつずれていく、階段状のずらし方だ。

この「ずらし目地」のタイルの貼り方は、日本ではほぼ前例がない。瀬口社長が施工前に国内の実績を調べたところ、参考にできる現場が一件も見つからなかったという。

建築現場に持ち込む前に工場で壁にタイルを設置しておく「PC絶縁工法」を採用

タイル自体はマット調の素材であり、光を反射して輝くものではない。外壁が豊かな表情をもって見えるのは、反射ではなく、凹凸と陰影の積み重ねによるものだ。27パターンの壁面の折れ曲がり、そして6万枚のタイルのずらし。その二重の仕掛けが組み合わさることで、光を反射しているわけではないのに、見るたびに印象が微妙に変わる外観がつくられている。

そしてもう一つ、この外観を成立させるための構造的な土台がある。「PC絶縁工法」だ。タイルを一枚一枚職人が現地で貼っていく通常の施工と異なり、この工法ではあらかじめ工場でタイルを並べてコンクリートを打ち込み、「PCブロック」と呼ばれるユニットを製造する。それを現場でクレーンで吊り上げ、建物の躯体に取り付けていく。

博多駅前という通行量の多い場所で、上空での作業中に何かが落下するリスクを極力なくすためのアプローチだ。さらに、タイルと金物の間にゴム状の絶縁体をはさむことで、地震の揺れによるひび割れや剥落を防ぐ仕組みになっている。安全性の担保として、施工後の引っ張り試験では、法定基準値の50倍を超える数値を記録した。これも外部機関に任せるのではなく、自社で検証した結果だ。

現場で積み重ねられてきた試行錯誤

瀬口タイルがこの仕事を任されたのは、大成建設の技術部門からの声がけがきっかけだった。東京の専門工事会社が担ってきた領域に九州の会社が入ることへの期待と、瀬口タイルが取り組んでいた3Dで建築設計するBIMを利用した建築情報モデリング技術への評価があった。

実際のBIM図面によるデモ

3Dで外壁の仕上がりを可視化し、関係者が共通のイメージをもって議論できる。この点が、複雑な外観をもつこの建物の施工に適していると判断されたのだ。

BIMを活用することで、関係者が設計の意図を共有しやすくなる。「昔は図面と職人の実力と経験でやってきた。でも今は、みんなが同じ絵を見て話せることが大切」と瀬口社長は言う。そのことへの確信が、BIMへの早期の取り組みを促していた。

施工が始まると、想定外の局面が次々と現れた。ずらし目地でタイルを並べていくためには、すべてのブロックのタイル配置を細部まで把握する必要があった。規則的に並べたタイルであればすべて同じサイズだが、少しずつずらしてあるため、タイルのサイズの種類は多くなる。外壁担当の外村さんを中心に、使用するタイルの種類、サイズ、枚数を全棟分にわたって一枚一枚数え上げ、Excelで管理していった。

「もう、全部大変でした」と外村さんは苦笑いする。それでもノーミスで施工を終えた。取り付け作業は夜間に行われることが多かった。昼間は通行人や周辺への影響を避けるため、PCブロックのクレーン吊り上げと取り付けを夜間に集中させた。24時間体制で動き続ける現場の中で、大成建設の現場チーム、翠興産(PC製作・取付)、LIXIL(タイル製作)、オリオンセラミック(タイル加工)、YKKAP(カーテンウォール)の、それぞれの専門家が持ち場を守り続けた。

「これは一社でやったことじゃない」と瀬口社長は言い切る。「関係各社、社内のみんなの結晶です」。

西日本シティビルの外観がつくる街の風景

丁寧にタイルが貼られたPCブロックは2025年4月、最初の一枚が建物に据えられた。そこから約8ヶ月かけて、全部で6万枚のタイルが「西日本シティビル」の外壁を埋めていった。完成した外壁について、瀬口社長は言う。

「ただただ、よかったと思います。一番嬉しいのは、工事中にタイルを一枚も落とさなかったことです」

瀬口タイル 工務部 外村翔一さん

施工を担当した外村さんは、完成した外壁を前にしたときのことをこう振り返る。

「やっとできたな、と思いました。イメージしていたものより大きく感じました」

6万枚のタイルが並べられた外壁は、独特の美しさがある。外村さんは、タイルならではの美しさをこう語る。

「タイルは焼いて作るものなので、色ムラが出たり、形状に少し差が出たりする。全部同じ色じゃないし、同じ形もない。それがタイルのいいところじゃないかなって思います」

工業製品でありながら、一枚一枚が微妙に違う。その個体差が、見る人に自然素材に近い落ち着きを与えているのだ。

博多駅前という場所に立つこの建物は、周囲のガラスのビル群とは異なる存在感をもって街に加わった。瀬口社長がタイルについて語るとき、繰り返し使う言葉がある。「心を豊かにする素材」。派手ではないが、そこにあるだけで落ち着く。時間が経つほど街に馴染み、見る人の日常に静かに溶け込んでいく。それがタイルの本質だ。

実は近年、外壁にタイルを使う建物は減ってきている。物価の上昇とともにタイルのコストが上がり、マンションでもオフィスビルでも、吹き付け仕上げやガラス張りに切り替えるケースが増えている。「贅沢品として削られてしまう」と瀬口社長は言う。タイルのライフコストの良さや、素材としての豊かさが、初期費用の高さの前に見落とされていく現状を、静かに、しかし確かに惜しんでいる。

だからこそ、「西日本シティビル」の完成には特別な意味がある。「この建物を見て、タイルいいな、と思ってもらえたら」。そのために、西日本シティビルで使った工法のノウハウを特許で囲い込もうとは思わなかった。「同じことをしたいという人がいたら、全部教えます。こういう建物がどんどん増えてほしい」。業界全体にタイルの可能性を広げることが、50年続いてきた会社の次の仕事だと思っている。

博多の街の一角に、6万枚ものタイルが貼られた建物が建っている。その一枚一枚は、誰かが数え、誰かが並べ、誰かが取り付けたものなのだ。そんなことを知ると、ついつい外壁に近づき、タイルの一枚一枚を眺めたくなる。

NCBホール公式サイト

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